PRESS PEOPLE 

新聞社の中の人のブログです。報道の仕事をして30年。誤解されていることの多い業界のリアルを更新していきます。

権力を監視!? 記者の名刺でかんちがい 

新聞社に入社した頃、先輩たちに「記者の名刺さえあれば、誰とでも会える」と言われたものだ。その気になれば、ときの権力者や企業トップなどと会えてしまう。自身は現職の首相にインタビューする機会こそなかったが、元首相と話すことは何度かあった。一方で地方にいれば、そこの名士とは否が応でも仲良くなっていく。

 

 青臭い言い方をしてしまえば、「権力を監視する」意味で、記者の名刺は必要不可欠なツールである。名刺を差し出せば、その相手は警戒するだろうし、ひょっとしたら記者を利用しようという考えを抱くかもしれない。そうした〝緊張関係〟の中で、世間があっと驚く特ダネが生まれたりする。もちろん、情報をあえて流して取り上げてもらおうとする“リーク”も多分にある。

 

 だからといって、記者という肩書がこれからもずっと〝有用〟かと問われると、それはよくわからない。メディアを取り巻く環境が激変し、新聞やテレビの影響力が右肩下がりなのは自明のことである。だから、取材される側のメディアとのつきあい方も今後変わってくるに違いない。

 

 それでも、旧来のマスコミが長年にわたって培ってきた取材のやり方は無くならないし、守っていかなければならない。取材相手との信頼関係の構築、徹底した裏取り…。信頼に裏打ちされた報道を続けるためには、メディア自身がデジタル社会の中での〝泳ぎ方〟を見いださなければならない。

 

 そして、最近では働き方改革もある。事件記者の夜討ち朝駆け(夜遅く、早朝に取材対象者の自宅で待ち伏せする)は当たり前だったが、これからはアウトである。新聞社やテレビ局にとって、記者の働き方改革は喫緊の課題なのである。その結果、ニュースの質の低下を懸念する声が上がるかもしれない。記者の「働き方」については別の機会に書こうと思っている。

 

 記者の名刺に話を戻す。名刺は、特ダネや独自記事を書くための〝初乗り切符〟だと思う。だが、時として勘違いしてしまう記者がいる。当局側とズブズブの関係になってしまい、結果として利用されるだけで、飲み食いさせてもらって何も書かずという人もいた。

 

 ずいぶん前に地方のある警察本部であった話だが、若い記者が駐車違反で切符を切られた際、自分の名刺を差し出し、もみ消しを申し出た。かなうはずもない。ここからは伝聞なのだが、その記者は県警本部の広報課長に「県警の不祥事を探して書く」と言い放ったという。その記事は結局出なかったのだが。

 要は、勘違いだけはダメなのだ。