PRESS PEOPLE 

新聞社の中の人のブログです。報道の仕事をして30年。誤解されていることの多い業界のリアルを更新していきます。

トイレットペーパー狂騒曲

 「トイレットペーパー、買いだめしておいた方がいいですよ。自分は昨日、スーパーで8セットをゲットしましたけど」

 一瞬、同僚の言葉に耳を疑った。まさか新聞記者が信憑性のないデマに振り回されるとは…。

 

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、日本のあちこちで混乱が生じた。例えばドラッグストアやスーパーなどからマスクに続き、トイレットペーパーが消えた。陳列棚にないのだ。生産が追い付かないマスクではなく、ほぼ100%国産で在庫も豊富なトイレットペーパーがないと、多くの国民がSNSで発信されたウソを信じてしまう。前述の記者は事件取材が豊富で、疑うことを生業(なりわい)としているのに。そのうち市場で正常化に向かう力学が働くはずで、あとには嘆息だけが残りそうである。

 

 かくいう新聞社もそんな世間の雰囲気に飲み込まれている。いや、振り回されているといっていいかもしれない。

 

 報道機関の大原則として、新聞の継続的な発行とネットニュースの配信を維持するという使命を自任している。そのためにも、職場が集団感染、クラスターの場にならないよう指示が出ている。たとえば、時差出勤や本社に立ち寄らない「直行直帰」。そして社内での会議・会食は極力避け、出張も控える。さらにはテレワークの導入も促される。

 

 身近なところから感染を拡大させない意味では必要な措置にはちがいない。ただ、取材現場はそう簡単にいかない。「取材は極力電話でしろ」と言われ、「不特定多数が集まる場所に行くな」などと活動を制限されると、思ったような取材ができない。ほとんどの記者がジレンマを感じている。

 

 一方で新聞社は報道だけが仕事ではない。イベント屋さんでもある。この春、全国紙、地方紙を問わず各地で新聞社主催のイベントが予定されている。いや、されていた。スポーツイベントや展覧会、コンサートなどが延期や中止を余儀なくされた。「無観客」という措置もあった。収益という面では本当に痛手で、つらい。

 

 今回の新型コロナウイルス騒動はまさしく「有事」「国難」である。収束にはまだまだ時間がかかりそうだが、「一斉休校」などをきっかけに今後の働き方改革に向けた問題点も浮き彫りになった。取材現場も然りである。

 

 そうは言いながらも、断れない会合に今日も出向く自分がいる。