PRESS PEOPLE 

新聞社の中の人のブログです。報道の仕事をして30年。誤解されていることの多い業界のリアルを更新していきます。

堂場瞬一著『帰還』のリアル

 

新聞記者出身の作家、堂場瞬一氏の『帰還』(文芸春秋)を読んだ。

 

 あらすじはザッとこうである。50歳を過ぎて地方勤務を希望した大手紙の支局記者が取材中に事故で死んだ。葬儀のため、入社30年になる同期の男女3人が現地へ向かう。今ではその立場も異なり、自由気ままな編集委員、編集現場から外れたが女性初の役員を目指す部長、左遷で関連団体に出向を命じられた男。同期の死に不信感を抱いた3人はそれぞれ独自に「取材」を始めていくと……。

 

 取材の最前線で平成の時代を見つめてきた元新聞記者の著作だけに、記者の〝生態〟ばかりでなく、「新聞離れ」が突きつけた新聞社の厳しい現状をリアルに描かれている。それゆえに読みやすくもあり、身にもつまされる。

 

 「人は減らされ、経費は使えない…」。まさにその通りである。登場人物の同期4人はともに三重県の津支局に新人記者として配属されていた。バブル期の大量採用の時代だった。今なら新人が1人でも配属されればそこの支局長にとっては御の字である。4人なんてありえない。一方で、平成の初めには経費の使いすぎもあまりうるさく言われなかったが、最近は取材目的の飲食が1人5000円を超えてしまうと、経理担当者から一筆を求められることさえある。

 

 ただ、この本を読んでいると、昔のほうが異常だったと思うことも多い。同期が4人も同じ地方支局にいたらどうだろう。競争意識は激しくなり、紙面に特ダネが増えることは確実である。私自身もそうした支局に放り込まれた経験があるが、肉体的にも精神的にも疲れてしまう。同期が複数いるということは、上の年次にも同期が複数いるわけだ。つまり、ある意味で記者としての〝生存競争〟を勝ち抜かねばならない。上司もそれをあおる。今なら「パワハラ」まがいの叱咤を受けたこともある。

 

 「人海戦術」という言葉がある。ひとたび大事件、大災害が起きると新聞社は現場に取材団を派遣してきた。記者の数が多ければ取材活動がはかどり紙面も充実する。それは事実だ。ただ、記者がたくさん被災地に滞留するのは邪魔でしかなく、かえって被災者の生活に悪影響を及ぼすケースも想定される。交通渋滞しかり、コンビニで食料を調達することなどは論外である。

 

 携帯電話はもちろん、SNSが普及して久しい。記者たちの働き方改革も叫ばれる。「人は減らされ、経費は使えない」。取材のやり方も自ずと変わっていくはずである。