PRESS PEOPLE 

新聞社の中の人のブログです。報道の仕事をして30年。誤解されていることの多い業界のリアルを更新していきます。

STAY HOMEで記者修業

 

 新型コロナウイルス感染症は、この春に入社した新人記者たちの出ばなをくじいた。今春採用の新人記者たちは例年通りの研修を受けられなかったのだ。

 

 通常、大手新聞社では新入社員を本社などで短期間研修してから地方の支局に配属する。4月初めに東京や大阪など8都府県に緊急事態宣言が出され、新聞社も例外なく在宅勤務、テレワーク、時差出勤などを記者らに求めた。

 

 本来ならば担当の先輩記者がつき、「密」の状態で原稿の書き方指導や取材先見学などを行うのだが、今年は新人を早々と地方に赴任させた社もあったと、聞く。

 

 さらにその後配属された地方の支局でも通常通りの新人教育ができなかった。指導役のデスクが「在宅で仕事をするように」と指示したところで、新人記者は途方に暮れるしかない。

 

 結局のところ、緊急事態宣言が解除されて世の中がひと段落するまでは、警察や役所などの広報文を電話で取材させ、記事を書かせることぐらいしかできなかった。それもデスクと顔を突き合わせてというわけにもいかないから、添削さえも不十分だったにちがいない。

 

 記者の仕事は、基本的に人に会って話を聞いて記事を書くこと。だから、コロナ禍で「対面取材」の縮小を求められると、仕事をした気になれない。

 

 もちろん今の時代は、スマホもあれば、オンラインで取材もできる。その気になれば不可能はないわけである。ただし、それは記者としての経験や蓄積、そして人脈があってこそ言えることだ。新人記者はまず担当の持ち場で人間関係をつくらなければならない。

 

 例えば警察署回りの担当だと、とりあえずは署の広報担当者である副署長と毎日顔を合わせ、会話が弾むような人間関係をつくっておくことも求められる。いざ大きな事件・事故が発生したとき、助けてくれる可能性もある。

 

 ただし、これを真面目にやっていたら、当然「密」になる。支局での実績と評価はその後の人事を左右する。入社したばかりの記者たちは「最初が肝心」と考え、焦りを募らせているだろう。(だが実際は記者が頑張ったところで、政治部とか社会部とか、国際部とか、希望の部署に行けるのかどうかはわからない。「空き」のタイミングもあり、常に運・不運が付きまとう。)

 

 取材手法は時代とともに変化していく。対面取材に対する考え方も然りだ。

 ウィズコロナの時代、どうやって取材対象者との人間関係を築くのか。SNSを駆使するのもよし、自分なりのやり方で、取材対象者との人間関係をつくっていけばいい。顔をしかめる先輩記者など気にせずに。