PRESS PEOPLE 

新聞社の中の人のブログです。報道の仕事をして30年。誤解されていることの多い業界のリアルを更新していきます。

地方紙は有事に強い

 新型コロナウイルス感染症に関する報道をめぐっては、それぞれの地域における生活情報の発信の大切さを改めて感じた。こんなときだからこそ、新聞の読者は身近なニュースを欲している。「給付金を一刻も早く早くもらいたい」「どうすれば休業補償をしてもらえるのだろうか」「学校はいつ再開するのか」…。悩みや疑問は尽きない。

 

 地域で一定のシェアを誇る「県紙」と呼ばれる地方紙が存在する府県の住民たちは、きめ細かな地域情報を得られる。県紙が人海戦術によって多くの記者を配し、読者が必要とするニュースを数多く提供できるからだ。まさに地方紙の面目躍如である。

 

 一方、全国紙やブロック紙が幅を利かす首都圏や近畿圏などの一部地域ではそうはいかない。地方紙ならば社会面を県版(地域面)のように編集することができるのだが、全国紙ではやはり社会面は社会面なのである。

 

 地域面もあるにはあるが、東京や大阪では社会部の記者が〝片手間〟でやっている感が強い。また、大都市圏にある支局が作る県版にしても地方紙ほどのマンパワーはなく、情報量でかなわない。

 

 全国紙と地方紙とでは編集方針も違うし、その役割もおのずと異なってくる。だから双方のすみ分けができているのだけれど、いざ有事となると地域の読者に必要な情報を十分に伝えられないことに全国紙はジレンマを感じてしまう。

 

 そんな折、NHKBS1スペシャル「ニュース砂漠とウイルス~アメリカ 地域メディアの闘い~」というドキュメンタリー番組を観た。新型コロナウイルスの感染者、死者とも世界で最も多い米国では、社会を根底から揺るがすこのウイルスが、新聞など地方メディアに深刻な打撃を与えているという。

 

 背景には、新聞社の経営を長年支えてきた広告収入が激減し、全米各地で記者の解雇や廃刊が相次いだことがある。番組のタイトルにある「ニュース砂漠」とは、住民が地域情報にアクセスできなくなることを意味する。

 

 日本にいると、そうした米国の地方紙の状況をイメージしにくい。情報量に差に違いはあるにしろ、国内では地方紙、全国紙とも地域ニュースを発信できているからである。

 

 だが米国同様、日本の新聞社の経営を支えてきたのは広告収入である。一方でネットの普及などで紙の読者の減少傾向も止められないでいる。これら米国メディアで起きている現実は他人事ではないのだ。