PRESS PEOPLE 

新聞社の中の人のブログです。報道の仕事をして30年。誤解されていることの多い業界のリアルを更新していきます。

「原稿」を書いた最後の世代

 

平成のはじめ、新聞記者になった。30年の時が流れ、いまは編集の第一線を外れたため、取材現場で出ることはめっきり減った。なりたくてなった職業だから、書く機会が奪われるのは正直寂しい。ただ、他の仕事にかまけて疎かにしてしまったという後ろめたい気持ちもどこかにある。

 

 そんな自分自身のことはともかく、新聞を含めメディアを取り巻く環境は激変している。

 とりあえず表面的なことをざっと言えば、今や電話取材にスマホは欠かせないし、原稿はパソコンやタブレットで書く。もちろん調べ物はインターネット検索が当たり前。記者同士、あるいは原稿をチェックするデスクらとのやりとりには「LINE」も使う。便利だといえば、そうに違いない。

 

 30年前はといえば。原稿用紙にボールペンで書いた最後の世代。調べ物は図書館だった。携帯電話もなく、会社からのポケットベルが鳴ると公衆電話に走った。突発事故などの原稿を口頭でデスクに吹き込んだ。今は街で公衆電話を見つけるのも困難で、ポケベルを使った無線呼び出しサービスを唯一展開する東京テレメッセージは今年9月末にサービスを停止するという。

 

 電子機器やコミュニケーションツールが急速に発達したことで、記者たちがその恩恵を被り、取材や執筆など効率的に仕事ができるようになった。ニュースの多種・多角化や情報量の増加、さらにはデジタルシフトなどに伴い、記者の取材のやり方も変わってきている。だからこそ、便利なツールは効果的に使ってほしい。

 

 ただその一方で、残してほしい〝アナログ〟な部分もある。最近、政治家や企業トップらの記者会見をテレビでみると、カチカチという音をよく耳にする。若い記者たちが会見での発言を一字一句漏らさないようパソコンに打ち込んでいるのである。

 

 老婆心ながら、これでは会見している相手の表情が見えない。ひょっとしたら何か隠しているのではないか。表情からそんなことを読み取れることもある。でも、デスクから会見の詳報を求められる御時世だから仕方がないか。余計なお世話と言われてしまうのがオチだ。

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 新聞社の窓際に座り、日々感じていることを綴っていこう。