PRESS PEOPLE 

新聞社の中の人のブログです。報道の仕事をして30年。誤解されていることの多い業界のリアルを更新していきます。

メモの力は記者の力

 

多くの人が新聞記者は文章がうまいと思い込んでいるに違いない。でも、それは大きな勘違いである。一部のコラムニストや作家先生を目指す記者を除けば、その筆力は五十歩百歩というところだろう。もっとも、誰に何と言われようと文章に自信を持っている記者もいるにはいるが、大抵は限界を感じているはずだ。かく言う私自身もそんな1人である。

 

 中には文章の下手くそな記者もいる。でも、下手にもいろいろあって、表現力とか語彙とか言い回しとか、そうしたテクニカルな部分についてはチェック役のデスクが紙面化される前に何とかしてくれる。その前提は記者がきちんと取材相手の話を聞き、内容を理解し、正確に書いていることである。若いときに事件や行政などの取材で手抜きをしていなければ、少々文章に難があっても記者としては問題はない。案外、スクープ記者はそうかもしれない。

 

 一方で、いろいろある下手くその中で、絶対にモノにならないのが、メモを取れない記者の文章である。取材相手の話を聞いても、内容を十分に理解できておらず、正確に書けないのである。単独インタビューでも記者会見でもメモを取るのだが、うまく取れていない人が意外と多い。

 

 私個人的には、そういう記者はICレコーダー(古くはテープレコーダー)がメモ取りの邪魔をしていると思っている。「録音している後から聞けばいい」という安心感と怠惰な心が貴重なメモ取りを阻んでいるのである。そしてもう1つは、パソコン。記者会見の場で、若い記者が発言を一字一句漏らさないようパソコンに打ち込んでいるのである。

 

 取材というのは、その瞬間が大切だ。インタビューの相手、記者会見に出ている人間が話している内容はもちろん、ニュアンス、その表情から来る行間などを読み取るのは記者の醍醐味だと思う。聞き漏らしても、「今、何て言いました?」と問い直せば大丈夫だ。逆に思いがけない言葉が引き出せるかもしれない。

 

 メモをきちんと取れない記者は伸びない。これは記者だけでなく、どんな企業・役所にいても同じではないだろうか。上司、部下、取引先の話がうまく聞けないのだから。最近、「メモの取り方を伝授します」などの指南書を書店でよく見かける。どの業界でもメモ取りが苦手な人が増えているのだろうと推察する。

 

 メモ取りがうまくなりたいのなら、指南書を参考にするのもいい。でもその前に、取材して記事を書くと思って、上司や取引先の話をメモを取りながら聞いてみたらどうか。メモ力だけでなく、相手からの印象も上がるに違いない。