PRESS PEOPLE 

新聞社の中の人のブログです。報道の仕事をして30年。誤解されていることの多い業界のリアルを更新していきます。

人事異動はスクープ合戦1

新聞記者の仕事のうち、社内はもちろんのこと、ライバル他社にも高く評価されるのが「人事で抜く」ことである。ベタ見出しの小さな記事にしかならないことも多い、地味な仕事なのだが、取材にけっこう労力もかかるし経験も必要だ。何より人脈が物を言う。

 

 一言で「人事で抜く」と言ってもわかりにくいだろう。官公庁や上場企業、経済団体などのトップや重要ポストに誰が就任するかを発表前にキャッチし、同業他社より先に報じることである。ブロ野球の監督人事なんかもそう。新内閣の閣僚人事もその1つなのだろうが、これは派手だし、事前にある程度予想がつくため、ちょっと毛色が違う。

 ただ、言われてみれば、お役所や一流企業の人事異動なんて、一般の人にとってはどうでもいいことかもしれない。それを他社の記者と抜き合いを演じるのは自己満足でしかない、との指摘もあるだろう。

 

 だが、こうしたトップ人事や主要人事からは、中央や地方の政局はもちろん、経済界、各種業界の動向、権力争いの構図など、いろいろな動き、せめぎ合いが読み解けるのである。新聞記者は人事を探ることによって、自分が担当するセクションで特ダネを追いかけて書き、読者に対してはわかりやすい解説記事を書くのである。

 

 さしあたっては、統一地方選が終われば、例えば新知事の最初の仕事は副知事の人事である。説明しておくと、知事は副知事を勝手に選べない。もちろん意中の人を選びたい。でも根回しが必要だ。最大の関門が議会である。副知事人事は議会の同意案件なので、議会の最大会派は取り込んでおきたい。一方で、県政を円滑に進めるために、県庁内も丸く収めたい。そのために職員に対してもさまざまな手を打つのである。

 

 こうした動向を追いかけるのが担当記者の仕事なのだが、日頃から県庁(幹部職員)や議会(議員)を入念に回っていないと、人事を抜くことなんて所詮無理である。まぁ、副知事人事を特ダネとしてモノにできれば、全国紙でも小さい扱いながら1面に載せてもらえるかもしれない。記者たちはそれを一心にかけずり回っているのである。

 

 そんな新聞記者も自分自身の異動を読むことが苦手だ。というか、無頓着である。通常は上司から内示を受けるのだが、なぜか役所の広報課長などが先に知っていて人づてに聞かされることもある。日頃から社内を取材していれば、「抜ける」こともあるのだが…。