PRESS PEOPLE 

新聞社の中の人のブログです。報道の仕事をして30年。誤解されていることの多い業界のリアルを更新していきます。

守られない交通弱者

4月から5月にかけ、悲しくいたたまれない交通死亡事故が相次いだ。

 

 東京・池袋で暴走した乗用車にはねられ、母親と3歳の女の子が亡くなった事故。神戸・三宮の横断歩道では、歩行者に路線バスが突っ込み男女2人が死亡した。そして、滋賀県大津市の交差点では車2台が衝突し、散歩中だった近くの保育園児ら16人が死傷した。これら3件をめぐっては、新聞を含めて多くのメディアが大きく報道した。

 

 私自身、約30年の記者生活の中で、軽微なものから大規模なものまで多くの交通事故を取材してきた。ここ十数年の個人的な印象でしかないが、ドライバーが死亡する事故はめっきり減り、逆に歩行者や自転車利用者などが犠牲になるケースが目立つようになっている。それは、シートベルト着用の義務化やエアバッグの標準装備などがドライバーを守る一方で、交通弱者に対する〝施策〟にあまり変化がないからだ。大津の現場にガードレールがあれば、小さな命が守られた可能性もあったと思う。

 

 それはともかく、4月19日に池袋で発生した車の暴走事故をめぐり、妻と長女を亡くした男性(32)が数日後に記者会見し、マスコミに被害者の写真を公開した行動に感じることがあった。男性は「妻と娘のような被害者と、私のような悲しむ遺族を絶対に出してはいけない」との思いで公開したという。

 

 事件や事故の被害者の写真掲載をめぐってはプライバシーの権利などでさまざまな意見がある。写真を求める取材現場では「人でなし」「そっとしておいて」など罵声を浴びることも少なくない。一方で、今回の男性のように、画像を見て「必死に生きていた若い女性と、たった3年しか生きられなかった命があったことを現実的に感じ」「不安があることを自覚した上での運転や飲酒運転、あおり運転、携帯電話の使用などの危険運転をしそうになったとき、2人を思い出し、思いとどまってくれるかもしれない」との思いを込める遺族もいらっしゃる。

 

 取材現場は一つとして同じものはない。被害者の写真掲載にあたっても遺族の思いはさまざまである。若い記者たちには勝手な思い込みや先入観を持たず、謙虚に対応して欲しい。それが新聞の信頼維持にもつながると考えるからだ。